今回は、「インスリン注射が必要な方が過ごしやすいカフェ」を神戸で運営されている遠山朋美さんにお話を伺いました。カフェには若い患者さんを中心に、赤ちゃんから80代のシニア層まで、幅広い年代の人が訪ねてきます。ふだんは家族にも話さないようなことをカフェでは話したり、時にはたまった思いを涙ながらに打ち明けたり、悩み苦しむ患者さんのまさに駆け込み寺となっています。そんな患者さんの気持ちをそっと受け止める遠山さんからは、一人ひとり異なる患者さんの思いに向き合う強い責任感と尽きない向上心が溢れていました。
遠山さんは、2019年に1型糖尿病を発症しその2年後、開店準備をしていた2021年には乳がんを発症しました。1型糖尿病はまだまだ知られていない病気ゆえに、「悪気のない」誤解や偏見からつらい思いを抱えている患者さんも多く、「孤独な患者さんをつくらない!」という一心でカフェをオープンしました。今でも月3回のカフェで勉強会を開き、自身の勉強も怠りません。私が訪問した前日は「MODYの型と社会的問題。」をテーマに勉強会が行われていました。勉強会やカフェでの対話を通して、日々の疑問や何か違うなと思い続けてきている患者さんを「腑(ふ)に落ちる」瞬間に導くことを目指しています。「腑に落ちる」というのは「わからなかった現象を俯瞰し広い視野で地図のように見えるようになる」こと。日々の治療であったり、主治医からの言葉の意味であったり、モヤモヤを抱える患者さんの霧が少し晴れるきっかけがこのカフェで生まれています。そして心の拠り所にもつながっているのです。
そんな遠山さんはもともと30年ほど看護師をしていたこともあり、カフェでは「間違った情報を伝えないこと」を常に意識しているそうです。知識が豊富にあれば、「あれもこれも話したい、伝えたい」となりそうですが、自分が発する言葉の重みを理解しているからこそ、より慎重に言葉を選びながら対応しています。遠山さんが1型糖尿病を発症した時は、看護師という仕事柄1型の知識もあり何より周囲の理解に恵まれていました。入院しなかったので、最初は、自分自身で少しずつ確認しながら管理に慣れていったそうです。発症してから間もない時期は未知の病気に対して誰もが神経質になります。そんな時、遠山さんは簡単に「大丈夫」とは言わず、そんな悩む時期を過ごすことも大切と考えます。「一歩一歩、時間とともに経験していくことが大切。まず、子どもの時には子どもらしくあることが必要なように、そのうちここまでだったらいいんじゃないかなという余裕や「いい」加減で向き合うことができるようになります。初めから大人であることはむしろ危険だと感じています。」
カフェを訪ねる患者さんの中には、家族にも心を開けず、SNSやネットの情報も見ずに、自身の病をなかなか受け入れられない人もいます。そんな時は周囲の人は「理解したいと思っているよ」と伝えることが大切だと遠山さんは言います。「わかっているよ」ではなく「わかりたいと思っている」という方が患者さんの心に届きやすいのです。救いを求めてカフェにくる患者さんは最近増えています。遠山さんはそんな患者さんのための居場所の必要性を強く感じ、そしてより居心地のよい場所を提供できるように何をすればよいのか日々考え続けています。今では、全国から同じようなIDDMカフェを開きたい、という相談もくるそうです。遠山さんのような仲間のために行動する人が日本全国で増えていくことを願わずにはいられませんでした。